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看取りの亀・藤田傳三郎と交趾大亀香合/藤田美術館・田村文琳

●2017年3月 クリスティーズ・ニューヨーク
2017年3月にクリスティーズ・ニューヨークで開催されたオークションに日本から中国美術31点がまとめて出品されている。陶器、銅器や絵画などが出品され、その中で、清朝・乾隆帝所持とされる13世紀の陳容の作品「六龍図」はカタログ掲載時から注目され落札額は約56億円にも跳ね上がっている。これを含めた全出品の落札総額は、最終的に2億6280万ドル、日本円で300億円を越える大商いであった。出品者は大阪市都島区にある藤田美術館。老朽化した建物などを再建築・リニュアルするため資金づくりが目的で、収蔵物の一部を売却していたのであった。
このオークションの直後、目標を上回る資金調達ができたため、同年6月に休館に入り、2022年4月、リニュアル・オープンを成しとげている。
ここでは藤田美術館コレクションの創始者・藤田傳三郎の生涯を振り返る。

  

●藤田傳三郎とは
東京・目白、神田川にほど近い高台にホテル椿山荘がある。付近には元総理・田中角栄の私邸や元熊本藩主・細川家屋敷跡に建つ永青文庫(美術館)などがある閑静な土地である。このホテルがある場所は、元々明治時代の政治家・山縣有朋の屋敷であった。ここを譲り受けたのが、藤田財閥であり、現在、神奈川の箱根小涌園や全国のワシントンホテルを運営する企業・藤田観光として至っている。
藤田財閥は藤田傳三郎という山口県人によって作られた。藤田は天保12年/1841年に山口県萩市で生まれている。ご承知のとおり、多くの萩城下の長州藩士が明治維新後に政府の中心として活躍しており、実業家を目指していた藤田は明治2年/1969年に藤田傳三郎商会を設立し、軍人用の靴製造を始めている。後に、複数の企業と合併し、現在「リーガル」というブランド名で知られる製靴企業の祖である。引き続き、藤田は軍需用品の商社として成長し、藤田組として土建・建築業を展開し、のちの南海電鉄、大成建設、大阪毎日新聞などの元となる企業を創設し、多角経営で事業の拡大と財閥化を進めていった。
さらに岡山・児島湾の干拓事業を成し遂げ、晩年には民間人初の男爵となり、明治45年/1912年に亡くなっている。

●藤田傳三郎と美術品
財閥を形成することにより資本は藤田の手に集まる。これを元手に美術品の蒐集が始まっている。集めた美術品は茶道具、仏教美術、大和絵、墨蹟、考古物まで多岐にわたった。ただしその根底には明治維新後に将軍家・大名・寺院などから散逸する美術品が海外流出となる危惧を感じ、可能な限り国内に留めようとしたい思いがあったようである。
藤田の死後も子息によって美術品の蒐集は続けられている。しかし、大正・昭和と経済環境は大きな波があり、その都度、コレクションは世に出されている。松永耳庵が一時所持し現在、東京国立博物館に収まる井戸茶碗・有楽や根津美術館で今日所有している柴田井戸は藤田家のコレクションから売立されたものである。昭和26年/1951年、設立した財団法人へコレクションは移管されてはいたが、冒頭に紹介したオークションでの売却は初めてではなかったということになる。しかしながら、改装を終えた現在でも、藤田美術館の所有する美術品には、国宝9点・重要文化財53点という名品が残っている。

●藤田傳三郎を看取った茶道具
話は藤田の生前・明治32年まで遡る。この年、藤田は「日本のビール王」と呼ばれた実業家・茶人の馬越恭平(化生)から唐物茶入・田村文琳を譲り受けた。しかし、その後に藤田が主催した茶会でこの茶入が用いられることはなかった。藤田は「釣り合う一品が揃わないので」とだけ言い続けたという。
明治45年、藤田は「釣り合う一品」が売立に出されたという話を出入の茶道具商から聞いた。「一切を任す」と、藤田はその話を伝えた茶道具商に入札を任せたという。二日間にわたる入札の結果、落札者は藤田となり、電話でその結果を藤田は聞くことになった。しかし、この時、藤田は病床に伏しており、精算を終え、落札した品物が藤田の許に届いた日には、すでに藤田の意識はなかったという。そして、枕元に届いた落札品は藤田の手に収まることなく、後に藤田は亡くなった。この藤田を枕元で看取った茶道具こそ「形物香合番付」の東の大関・交趾大亀香合である。
2017年4月、東京国立博物館で国宝を含む茶道具の名品を集めた大展覧会「特別展・茶の湯」が開催された。国宝・曜変天目茶碗、国宝・志野茶碗「卯花墻」を始めとし、出展数の多さは500円玉の直径を超える図録の厚さからも推し量れる。そして、この名品ぞろいの展示品の最後を飾っていたのは、当時改装のため休館中であった藤田美術館から貸し出された交趾大亀香合であった。

 

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