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花咲く布・紅型/城間びんがた工房/城間栄喜・栄順/衰亡の危機を超えて

●花咲く布・紅型
「紅型」その艶やかな着物に初めて出会ったのは、まだ赤坂見附にサントリー美術館があった頃、もう30年近く前になろうか、「琉球の色とかたち/漆器と紅型」という展覧会だった。
紅型は型紙を用いて模様を染め出す型染め技法で、鳳凰・龍・牡丹など大陸由来のモチーフや松・桜・梅といった日本的な意匠が鮮やかな色彩で表現されていた。
それまで見たことのない色と柄は、強烈な印象だった。

    

若い頃は着せて貰っていた着物を自分で着るようになり、呉服店で再び沖縄の染織に触れ魅了された。
清水の舞台から・・の気合で購入したのは、紅型の第一人者・城間栄順氏による帯。
縮緬地を用いず特別に紬地に染めた帯は、紬好きな私のツボにはまってしまったのだ。
艶やかな多色使いではなく、紅型の一種の藍型(エィガタ)と呼ばれる琉球藍の濃淡で、梧桐と鳳凰が染められている。 鳳凰は梧桐の木だけにとまるといわれ、セットで描かれることもある文様だ。普通鳳凰が大きく描かれると思うが、桐の花のほうが大きく、鳳凰が可愛らしく飛んでいるのも気にいった。

●城間びんがた工房
そんなことから、いつか沖縄の城間工房を訪れてみたいと思っていたところ、10年ほど前に叶った。
首里近くの工房は、観光で訪れる人にも開放されていて、4、5人の職人さんが静かに色差しの作業をされていた。
どちらからですかと女性に声をかけられた。城間栄順氏の奥様だった。
帯をいただいたことなど話すと、ぜひ二階にと型彫の作業場に案内して下さった。
集中力が必要だから立ち入りはご遠慮いただいている場所とのことで、こちらも息をひそめる。2枚の型紙を重ねて彫る。線を突きながら彫るため、引き彫りとくらべ相当な時間がかかり、神経を使う作業だ。
興味深かったのは沖縄の島豆腐を乾燥させ、それを台にして絵柄の型紙を彫るということ。刃を傷めず繊細なラインを彫れるのが適しているのだとか。
どの工程もやり直しがきかない。真剣な眼差しで一心だ。
奥様は「以前は出来たものはすべて業者さんにお渡しできていたのに、このところは販売が厳しいので受注制作しか出来ません。」とおっしゃられた。
同じ道に進まれたご子息・栄市さんのこともさかんにお話しされ、ご心配なのだろうと思ったのだが、後にご子息が伝統工芸展で受賞、NHK日曜美術館にも出演され、私まで嬉しかった。

●衰亡の危機を超えて
明治になるまで、かつての琉球王国は海上交易を通じて独自の文化を発展させた。
琉球の染織・漆芸などの工芸も手厚く王府から保護され、「紅型」は対外的には中国、また薩摩藩や江戸幕府への献上品として、対内的には王族や士族の婦女子の衣装として発達した。
その紅型が衰亡の危機に瀕したことが二度ある。
最初の危機は明治時代の王府廃止に因って庇護を失った。染屋は廃業を余儀なくされ、多く職人が首里を後にし、衰退していった。
大正末期に調査・資料収集した鎌倉芳太郎がその困窮ぶり、悲惨な実情を記録している。
その惨状に歯止めをかけたのが1939年(昭和14年)に沖縄を訪ねた柳宗悦を中心とした日本民芸協会の人達だった。
柳は「どんな国の女たちも沖縄の『紅型』より華麗な衣装を身に着けたことはないでしょう」と感嘆し記している。柳らの啓蒙活動により復活の兆しをみせたのも束の間、第二次世界大戦に吞み込まれていったのだった。
日米軍により焼き尽くされ、住民の三分の一の命が失われ全ての文化遺産が壊滅した。
戦後、精緻な技を伝える人もいない、材料、道具、何一つない焦土。
絶対不可能と思われた復興の奇跡を実現したのは、王朝時代からの紅型宗家を継ぐ、城間栄喜、知念績弘だったといわれる。
型紙の一部が鎌倉芳太郎により本土へ渡り保管されていた。その型紙を入手。材料不足の中、拾った日本軍の地図に下絵を描き型紙として利用したり、割れたレコード盤を糊置きのヘラに、レンガや口紅を顔料のかわりに、薬莢を糊袋の筒先に使用するなど、工夫を凝らしたという。
妻や子を戦火で亡くし、生き残った三人の子のうちまたひとりを失ったとの生活は、想像もできない大変さだったと思う。
時に偏屈とも評された頑固さと、名利を求めない栄喜氏の人柄は「人間国宝」認定の打診をあっさり拒んだエピソードでも評される。

栄喜氏の長男である栄順氏は卓越したセンスと創造性で、現代にマッチした新しい図柄で着物を創作されている。今年は沖縄本土復帰50年と栄順氏の米寿とあわせての記念展が沖縄県立美術館で開催された。残念ながら拝見出来なかったが、首里・識名園近くのギャラリーで着物以外の作品展があり、足を運んだ。
絵画のように染められた作品も存在感があり、とても美しい。
思いがけず1点だけ栄喜氏の掛軸があり、感慨深く拝見した。
子供の玩具を描いた何気ない構図だが、品がありみていて飽きない。
紅型を美術館で観るものとしてではなく、手にとり纏うことが出来る幸せを思う。

 

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