• 店舗ブログ

お茶を楽しむ茶会とは/幻の打出焼/名残の茶会

●茶会とは 

抹茶を飲むには、湯を沸かす釜(現代であればポット)と茶をたてる茶筅と茶碗があればよく、美味しいお菓子もあれば楽しいお茶の時間だ。 

茶はもともと、室町時代では茶名をあてる賭け事、ゲームのようなものだったという。 

それがだんだんと洗練され、戦国時代では、茶席で戦場に赴く前に絆を深めたり、密談の場となったり、主が部下への褒美だったりと、されていたのである。 

基本は、亭主に招かれた客が懐石料理をふるまわれ、後に甘い主菓子(生菓子)がでて、ではお茶をどうぞと濃茶(抹茶の分量多く茶筅で練った濃いお茶)が、次に、干菓子と薄茶が供されたあと、亭主と客がその日の道具の趣向などの会話を楽しむのである。 

料理は省かれ、濃茶と薄茶だけの茶会も多く催されている。 

茶会は、その季節折々、時候にあった道具の取り合わせをし催すことが多いのだが、きっかけは他にもいろいろ。たとえば、長寿、結婚、新築などおめでたいことを祝う会や、または亡くなった方を偲ぶ会など。 

大正・昭和の財界人が、名器を入手したからとお披露目の会を開いた記録もたくさん残っている。当時大名家の売立てが続き、競って道具の収集がされたのである。 

茶会は教養と見識と財力が試され、また発揮される社交の場ともいえた。 

●幻の打出焼 

さて兵庫県芦屋市に打出小槌町という大変おめでたい地名がある。 

縁起のいいこの地名は芦屋の沖に住む竜神が、願い事が叶う小槌を朝廷に献上し、それが打出の長者の手に渡ったという「打出の小槌伝説」に由来するという。  

打出の地名は各地にみられ海辺や水辺に近いところに多く、この地も京都から続く旧西国街道が海に「打ち出る」ことを由来とする説もある。 

『摂津名所図会』には神功皇后の皇子軍士が打ち出るをもって名付けたとある。 

もっとも打出小槌町は元々の地名の打出に当地に伝えられる小槌伝説を合わせて、昭和にできたとか。 

その打出に明治の終わり近くに”打出焼”が開窯された。 

斉藤幾太という人が打出丘陵の良質の粘土層に着目し、京都から陶工を招いて、坂口庄蔵(屋号・砂山)に作陶させたと記録にある。 

初代阪口砂山(庄蔵)から二代目砂山(淳)の約六十数年間、旧打出村で作陶されたが、昭和48年には区画整理事業で窯も取り壊されてしまい、幻の打出焼となった。 

●茶会をする 

なぜこんな話しをだしたかといえば、たまたまヤフーオークションでその打出焼の水指の出品があり、その作品を入手したからである。 

仁清風、肩と胴をめぐる七宝文様と蓋の兎の摘みが可愛い。 

私が通うお茶のお稽古場は芦屋にあるため、お稽古仲間にみて貰いたい気持ちも働き、ちょっと頑張り運よく落札できた。 

早速、師匠にお見せしたら、この水指を使って名残のお茶会を開こうという思いがけない話となった。 

お茶は暖かい季節は風炉、寒い季節は炉と一年を半分に分けて釜をかける。 

風炉の季節は主に5~10月。10月は前年11月に口切りをしたお茶も少なくなり名残のお茶ともいい侘びた風情も好まれる。また旧暦の後の月を愛でる季節でもあり、お月見を意識した道具立てを考えることになった。 

今回はお稽古場の仲間内で亭主と客になるお稽古茶会なのであるが、そうはいっても茶会である。濃茶は通常一碗から複数人回し飲むのだが、コロナ禍では一人一碗の各服点であり濃茶と薄茶は茶碗を変えるから、茶碗だけで10個近く用意しなければならない。 

濃茶席・薄茶席、本来道具を変えるものだが略式にし掛物・花入などいくつかは同じにしても20点超のお道具が入用になるので、先生や社中(弟子仲間)にも協力を仰ぐ。 

師匠からは掛軸・江戸時代の歌人 日野資枝の「月の詠草(和歌)」や時代のある宗哲の美しい薄文様の中次(茶器)をお出しいただいた。 

打出焼のお茶碗をお持ちの方もいらっしゃり、嬉しい。 

栃の銘木に萩蒔絵を施した琴の形の香合、丹生神社の煤竹で作られた「茜雲」という銘の茶杓、豆名月にちなみ刀豆のかたちの蓋物を菓子器見立ててなど私も手元にある道具を動員。 

当日までに何回か道具を持ち寄っての打ち合わせをし、会記も書かなければ。 

当日は着物姿で、大荷物を運びいれた。 

栗きんとんや、兎や月をかたどった干菓子も美味しいと評判もよく、とても和やかに、楽しむことが出来た。 

このようにお稽古でも茶会を催すのはなかなかに大変なのだが、道具やお菓子の取り合わせを考えるのは楽しい。 

11月には、炉開きの季節となり、口切の茶事が行なわれる。葉茶壺に入れ目張りをして保存しておいた新茶を、陰暦10月の初め頃に封を切り、石臼で抹茶にひいて茶を点てる。茶人の正月ともいわれる。 

茶会は、月釜といって神社やお寺などで毎月決まった日に釜がかかり、誰でも気軽に参加できる茶席もある。お茶のカテキンは免疫力アップにいいらしい。 

身体にもいいお茶に親しみ、心配りされた道具を愛でる豊かな時間、おすすめである。