葛飾北斎の代表作は?人物像や画風、現在においての価値
かつて「北斎漫画」「HOKUSAI」という日本映画でその生涯を取り上げられた浮世絵師・葛飾北斎。生涯で3万点を超える浮世絵を製作したとされ、現行日本国紙幣の千円札のデザインに浮世絵の一部が採用されたことで、ますます私たちに馴染み深くなった画工です。
同時期の絵師として先んじて人気を博した喜多川歌麿や東洲斎写楽などの後塵を配しながらも、90歳まで作品を描き続けたと言われています。
今回は、江戸時代の絵師・葛飾北斎の生涯とその作品および現在の価値などをご紹介します。
葛飾北斎とは?
「天が私にあと5年の命を与えてくれるならば、本物の絵描きになれる」。齢九十となってもなお、芸術への終わりなき探求心を表していた葛飾北斎の言葉(「画本彩色通」初編跋文)として有名です。
その葛飾北斎はどのような生涯を全うしたのでしょうか。初めに葛飾北斎の人生を振り返ります。
●江戸時代の後期を代表する浮世絵師の一人、葛飾北斎
葛飾北斎(1760/寛政9年~1849/文政2年)は現在の東京都墨田区に生まれました。本名は、川村鉄蔵といいました。幼名が時太郎で、後に鉄蔵と名乗りました。
若くして勝川春章に学始めて以来、画業は70年にも及び、葛飾北斎が生み出した作品の総数は3万4千点以上といわれています。
江戸琳派の画風を継承し、人物画や風景画、花鳥画、春画、美人画・美人図、役者絵、武者絵、さらには読本の挿絵、黄表紙に至るまで、多岐にわたるジャンルの浮世絵制作に取り組んだのです。
葛飾北斎は30回の改名・落款変更をして、勝川春朗、宗理、為一、画狂人などの名前も用いました。また93回も転居した、などの逸話を残しています。
●生涯の最後まで精力的に制作活動を続けた鬼才の絵師
葛飾北斎はジャンルの多様性や作品数の多さ、そして独創性の高さにおいて、浮世絵の歴史に大きな足跡を残したと言われています。
葛飾北斎の革新的な作品は、ジャポニスムとして日本だけでなく印象派を中心とした海外の画家たちにも大きな影響を与えました。
「富嶽百景」初編の跋文では、「50歳の頃から数々の画図を発表してきたが、70歳より前に描いたものは、取るに足らないものであった。73歳になって、鳥獣虫魚の骨格や草木の成り立ちを理解できた。したがって、80歳でますます成長し、90歳でさらにその奥義を極め、100歳で神の域に達するのではないだろうか」との言葉を記し、死ぬまで描くことを貫きました。
●北斎漫画
「北斎漫画」は、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎が制作したスケッチ集で、1814年から数十年にわたって刊行・出版されました。全15編からなるこの作品集は、日常生活、風景、動植物、妖怪など幅広いテーマを描いたもので、北斎の多才さを示しています。
同時代の弟子や門人、絵師にとっては学習教材の絵手本として、多くの絵師や一般の人々に影響を与えました。また19世紀にはヨーロッパで紹介さると高い評価を得て、ジャポニスムの流行を牽引し、ゴッホやモネなどの印象派画家に影響を与えました。
また「略画早指南」という略画の描法を絵解きする絵手本では、コンパスや定規、さらには文字から絵を起こす方法など、描くことの楽しさも伝えました。さらには「三体画譜」では、真行草という、異なる描き方の習得を勧めました。
葛飾北斎の代表作
2024年7月3日、日本の紙幣が新しいものとなりました。そして千円札の裏面で葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」の一部がデザインとして採用され、より私たちの身近な絵画となりました。葛飾北斎の代表作として、これ以外にどのようなものがあるのでしょうか。
●冨嶽三十六景シリーズ
1831年~1834年ごろに制作されたシリーズです。富士山を主題に36枚を描いた有名な風景画であり、「神奈川沖浪裏」のほか、「凱風快晴」という有名な名作を含む連作の錦絵です。
多くの皆さまがご承知の通り、前者の「神奈川沖浪裏」は大波のループを描いた大胆な景色の構成で、その向こうにそびえる富士山と雲の大自然、波と格闘する船頭の様子など見どころの多い魅力ある作品です。
後者はのちに「赤富士」とも呼ばれる傑作であり、近現代日本の日本画家・洋画家により同様な題材で描かれるようになりました。他の場所で描いた作品には「相州江の島」「東海道金谷ノ不二」「駿州江尻」「本所立川」などがり、これらも人気があります。
その他同様の名所絵としては「東都名所一覧」「東海道名所一覧」「絵本隅田川 両岸一覧」「諸国名橋奇覧」「富嶽百景」があります。
●読本の挿絵
葛飾北斎は、浮世絵以外にも、読本の挿絵なども手がけていました。力強い描写やダイナミックな構図などで人気を博しました。
江戸時代後期から明治時代にかけて流行した日本の小説形式の書物として、読本があります。読み物として娯楽性を重視し、歴史物語や伝奇、教訓的な内容が多く、庶民に広く親しまれた読本ですが、るその代表的な作者に曲亭馬琴がいます。馬琴などの戯作者と提携した読本挿絵を葛飾北斎が描いていました。特に曲亭馬琴の「新編水滸画伝」の挿絵は人気を博しました。その他、狂歌摺物、狂歌本の挿絵なども描いています。
●肉筆画と晩年の大作
葛飾北斎は、肉筆の画帖を多く描き、絵草紙屋で売らせたと伝えられています。
天保時代の晩年の肉筆画としては、佐久間象山が詠んだ『望岳賦』を絵画化した作品「富士越龍図」、寺院の天井画として描かれた長野県・小布施にある「八方睨み鳳凰図」、「日新除魔図」などがあります。
葛飾北斎の画風のポイント
葛飾北斎は、新しいものを躊躇せず取り入れ、使いこなしていたと言われています。15歳頃から勝川派門下で美人画を学びましたが、後に風景画や歴史画、妖怪画、工芸図案など幅広いジャンルに挑戦しました。さらには、西洋の技術や絵の具をも果敢に取り入りています。
●ヨーロッパから入ってきた人工塗料をいち早く取り入れていた
葛飾北斎は、ベロ藍という人工塗料を使用しました。ベロ藍とは、ヨーロッパから入ってきた「プルシアン・ブルー」という人工塗料のことです。
浮世絵で一般的に使われていた従前の青色は、色が褪せやすく取り扱いづらかったようです。しかし、ベロ藍のおかげで葛飾北斎の表現の幅が広がり、空や海の色でこのベロ藍を多用した北斎の青色は鮮やかな彩色となり、「北斎ブルー」といわれています。
●遠近法を使いこなしていた
葛飾北斎は、平行投影法(立体物を平行な投影線を使って平面に投影する図法。遠近感を表さず、物体の形や寸法を正確に表現できるのが特徴)、一点透視図法(遠近法の一種で、1つの消失点(視点)がある図法。奥行きの表現に優れ、物体や空間の立体感をリアルに描く際に用いる)、零点透視図法(遠近法の一種で、消失点がない図法。視点が真上や真横など、奥行きの感覚を意識しない平面的な構図で用いる)などの、新たな西洋の絵画技法への取込も積極的でした。
●北辰妙見菩薩を信仰していた
葛飾北斎は、日蓮宗の一派である北辰妙見菩薩を信仰していたとのことです。これは北極星や北斗七星を神格化して崇める信仰です。北辰信仰は富士信仰とも結びついていたため、北斎は富士山を特別視していたといわれています。また「北斎」という画号も北辰信仰から来ているとのことです。
葛飾北斎の作品における現在の価値
そもそも浮世絵は、当時は低価格で販売され大衆文化として定着していたものです。かつては海外への梱包材として浮世絵が用いられていたことがあり、海外が浮世絵を知るきっかけはこうした梱包材のものだったようです。しかし、今では価値のある絵画として世界中で人気が出ています。
●本物は保存状態によって価格が異なる
絵画などの作品は作者の知名度や希少性だけでなく、保存状態によって価格が異なります。浮世絵版画は、一般的な絵画などよりも数が多いため、そこまで価格は伸びない理由は1回に何百枚と刷られており、富嶽三十六景の場合は何千枚と摺られていたために大きく価値が上がることはあまりありません。
●復刻版はコピーか木版画などで再現したものかによって価格が異なる
葛飾北斎の作品はさまざまな版元から復刻されて販売されてきました。復刻版版画作品は、数万から数十万程度で販売されているものもあります。博物館などで所蔵されているものはレプリカであることが多いようです。
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葛飾北斎は江戸時代の巨匠・浮世絵師です。特に、富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」は北斎の代表作として、ほしいと思うコレクターは多くいます。
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