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友禅菊に思う

京都市内から北へ車をはしらせること1時間と少し、京都、福井、滋賀の3県の県境に、久多(くた)地区がある。 

夏のある日、渓流釣りの下見に訪れた。 

公共交通機関もなく京都の秘境とも呼ばれる場所は静かな山間に清流がながれる自然豊かな山里だ。 

立ち寄った漁協の女性にひとしきり様子を尋ねた後、ところで、友禅菊はご覧になられましたかと聞かれた。 

友禅菊??ええ、今盛りになってきています。ぜひご覧になってお帰りくださいとすすめられ、探訪。 

少し奥に進むと鄙びた趣の神社があり、またその奥に茅葺屋根の民家が点在するのがみえる。 

あゝこれだ!薄紫の花が一面に咲いている。なんとものどかで、日本昔話の世界。 

なんでも北山友禅菊は、自生していた菊科の花を京都大学農学部などの協力で品種改良し地域の人々に大切に育てられ、久多でしか見ることのできない貴重な花だそう。 

現在は人口80人ほどの小さな集落だが、歴史は古く平安時代に都の寺の荘園として登場しているのだとか。 

そうか、鯖街道だものねと納得。鯖街道とは日本海・若狭から魚介類を京都へ運搬するための物流ルートで特に鯖が多かったことから、鯖街道と呼ばれている。 

今でも街道沿いには鯖寿司を売るお店もあり、鯖寿司は関西人の好物である。 

さて、友禅菊の友禅(ゆうぜん)とは、布に模様を染める技法のひとつであり、その名は江戸時代の京の扇絵師・宮崎友禅斎に由来する。 

元禄の頃、友禅の描く扇絵は人気があり、その扇絵の画風を小袖の文様に応用して染色したのが友禅染である。 

多彩な色彩と、「友禅模様」と呼ばれる曲線的で簡略化された動植物、器物、風景などの文様が特徴で、成人式や結婚式などどなたも目にしたことはあるはずの代表的な染織技法だ。 

ちょうど友禅菊を目にしたころ、オリンピック関連である話題を知った。 

オリンピック全ての参加国のためにその国をイメージした振袖を製作するという「KIMONOプロジェクト」だ。 

「各国の着物を身にまとった人が手をつないで輪を作り、世界に向け平和と友好のメッセージを発信する」とのコンセプトを掲げ、東京五輪開会式でのお披露目を目標に、振り袖と帯の制作を全国各地の職人に呼び掛けられた。 

生活様式の変化などで着物の需要は右肩下がりであり、きものと宝飾社(京都)の推計では、昭和50年代に1兆8千億円弱だった 

小売り額は、平成30年には約6分の1の3千億円弱にまで落ち込んだ。 

着物作りには生地作りや染色などで多くの職人が携わるが、市場の冷え込みで次世代への継承がままならない状況に追い込まれてもおりその業界再興のきっかけ作りを目指す目的があった。 

世界213の国、各国平等に200万ずつ、4億円超となる制作費は、プロジェクトに賛同する企業や個人からの募金で賄われたという。 

ところが、主催団体で内紛が起こり法廷闘争にまでなっているという。そのことが影響したか、五輪では一切不採用となってしまった。 

今回の開会式・閉会式では、歌舞伎役者海老蔵の装束や小池都知事以外ほぼ着物は登場しなかったように思う。 

プロジェクトはさておき、世界に誇れる日本の美しい芸術・文化といえる着物をなぜ活用しなかったか残念でならない。 

友禅斎だってあの世で嘆いていたのでは。 

最近は、着物を素敵に洋服や小物に仕立て直す動きもおこってきている。 

箪笥に眠っている着物はもう製作が難しいものかもしれないし、その時代々の流行を反映しているデザインが素敵で今にいかせるものも多い。 

捨ててしまってはおしまいだ。 

個人的には着物は大好きで、リサイクルも含めせっせと着てはいるが、着物が大切にされ、もっと活用されることを切に願う夏となった。