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浮世絵からの脱却・新版画/小原古邨/太田記念美術館

●新版画を作る画商

「開運なんでも鑑定団」で浮世絵・木版画の鑑定士を担当している渡邉章一郎は銀座のギャラリー・渡辺木版美術画舗の三代目である。初代である渡邉庄三郎が明治末に創業した美術商である。江戸時代からある浮世絵をカペラリという外国人とともに、二足三文で売られていた版画を芸術して売れるような形、つまり新版画と呼ばれる新しい版画に仕立てたのが、庄三郎である。

この新版画の作者は数名いるが、特にはある版画家二人の功績が大きい。一人は川瀬巴水、もう一人は吉田博である。日本の風景を旧来の浮世絵とは異なる絵画性をもって表現した版画家である。これらは庄三郎の努力により、国内のみならず、海外へと届けられた。そして、海外のコレクターが所持し続けた。しかし日本国内では大正時代の関東大震災、さらに昭和時代の本土空襲によって焼失した版画は膨大の数である。また、原画・版木も失われているので、新版画は一度絶たれ、また再現は困難な時代が昭和前半であった。

  

●忘れ去られた花鳥版画

東京・原宿表参道。全国的にも知られたファッション・ストリートである。編集子にはよしただくろうの曲にある「ペニーレイン」というレストランバー、また郷・西城・桜田というアイドルが出演するテレビドラマ「あこがれ共同体」という番組が懐かしい(ん…、誰もしらんか? 山田パンダの主題歌「風の街」もしらんの?)。この表通りから、一本裏に入ったところに太田記念美術館がある。ここは浮世絵専門の美術館で、東邦生命会長を務めたコレクター・太田清蔵のコレクションが収められている。普段は入館者もさほど多くないが、2019年二月、入館者の行列ができていた。この時の展覧会が、小原古邨展であった。もちろん日本人の版画家ではあったが、死後70余年までは、美術界でほとんど関心を持たれなかった版画家である。2018年に茅ヶ崎市美術館で初の本格的な作品展が開催され、追ってNHK「新日曜美術館」で特集されてからにわかに注目が集まった。忘れ去られていた版画家・小原古邨とは?

●小原古邨

古邨は明治10年、石川県の生まれである。上京後、日本画家・鈴木花邨に日本画を師事したと伝わる。この時期に古邨の書いた日本画は現存していない。しかし、明治34年には「花鳥画帳」という版画集を出版するまでに至っている。その後、軸足を版画に絞り、明治時代には二つの版元から版画を出版している。大正時代には、祥邨という画号で肉筆画にチャレンジしていたようだが、この時期の作品も不明である。そして、昭和に入り、先に紹介した渡邉庄三郎と新版画の制作に当たり、また他の版元からも豊邨という号で版画を発行していた。しかし、昭和20年の正月に亡くなっている。

昭和20年の終戦後、美術界も復興を目指して歩むことになったが、以後、古邨の名前は人々の記憶から消えていくことになる。

●古邨の花鳥版画

古邨の版画がなぜ外国人に受け入れられたかというと、それはやはり描いたものが花鳥、つまり自然界であったということであろう。鳥、獣たちなどと雪月花、そして日本の四季を感じる版画は外国人とっても単純に美しく、評価が得やすいものである。

ただし、あくまでもベースを日本画においていることを古邨の版画からは感じることができる。それは、歌川広重の「月に雁」と似た構図であったり、若冲の漆黒を背景にした描き方をしていたりする。

新版画には実を言うと人物画もあった。しかし、古邨の場合は、元々花鳥画を得意としており、また新版画を外国人に売っていくためになじみやすい花鳥画を第一選択肢とした渡邉庄三郎の戦略でもある。

遡れば、いずれの版元にしても廃れゆく浮世絵に対し、新たな命を吹き込むべき努力を、彫師、刷師ともども心血を注いだ版画である。そして、古邨の版画は肉筆と見まごう、生き生きとした花鳥画の世界を我々に見せるのである。

 

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