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小さなヴィーナス

コロナ禍の昨今、あの時あそこに行けて良かったなと思うことがままある。 

先月、三内丸山遺跡が北海道、東北に点在する考古遺跡16とあわせて2021年度の世界遺産に登録された。 

東北は西に住まいする私にとっては縁の薄い土地だが、ちょうど2年前の9月、訪れる機会に恵まれた。 

三内丸山遺跡は青森市にあり、八甲田山系からのびる緩やかな丘陵の先端部に位置する。 

他の見学者とともにボランティアガイドさんが丁寧に案内してくださった。 

目の前に開けた広大な空間に、背の高い建築物や大型の竪穴建物がみえる。 

遠くに海が望め、海のものが手に入るし、山があるし、いいところだったんだなあと想像。 

大型の建物は6本柱で長方形の大型高床建物と考えられており柱穴は直径約2メートル、深さ約2メートル、間隔が4.2メートル、中に直径約1メートルのクリの木柱が入っていたという。 

近づくと想像以上に大きく、今から5900年前~4200年前にどうやって建てたのか驚く。 

竪穴住居というと4人も入ればいっぱいというイメージがあったが、長さ約32メートル、幅約10メートルの大きな建物も復元されている。集会場だったのだろうか。 

列状に並んだ土坑墓、埋設土器、盛土、貯蔵穴、道路、大型建物などが計画的に配置されていて、想像以上にムラという社会生活が営まれていたことを体感できた。 

百聞は一見に如かずである。 

縄文はここ数年、密かなブームといってもいいらしい。かわいい・カッコいいとうけたのだ。 

ご存じのように「縄文時代」の縄文は、撚り紐を土器の表面に転がしてつけた文様の土器の「縄文土器」からきている。諸説あるがはじまりは約16000年前、終わりは約2700年前、ヨーロッパの区分にあてはめるなら、縄文時代は新石器時代、弥生時代は青銅器時代にあてはめて考えるといいらしい。 

2018年夏に東京国立博物館で特別展「縄文―1万年の美の鼓動」が開催され観客35万人のヒットした展覧会となった。1万年以上も続いた時代、様々な場所から集められた土器、土偶が盛り沢山でとても見応えがあった。 

何万件もある遺跡からはおびただしい遺物が発掘されているが、国宝に指定されているのはわずか6件。その国宝が初めて一堂に会するというのも話題となった。 

6点の国宝のうち、3点はその前年の京都国立博物館・120周年記念国宝展で私は初めて目にしたのだが、「縄文のビーナス」「縄文の女神」などの造形力に圧倒され、ポカンと口が開いてしまいそうだった。 

日本の土器の美しさを認識したのは30年以上も前になるが、名古屋徳川美術館の新館がオープンした記念展でだった。 

名品といわれる国宝や重文の茶道具の数々をみてから、最後の部屋に土器があった。そこでギャフンとなった。それまでの茶道具が吹っ飛ぶくらいよかったのだ。 

それ以来、土器を尊敬している。土器に人格はないのだが、そう思えてしまうのだ。 

 

土偶はいまだに何のために造られ、どう使用されたかはわかっていない。 

現在の通説を大まかにまとめれば、乳房やふくれたお腹、妊娠線などから、「土偶は女性をかたどったもので、自然の豊かな恵みを祈って作られた」。「命を生む(=再生させる)女性性の象徴として捉えた再生への祈り説」などになる。 

土偶の多くが身体の一部が破壊されて発見されているので、葬送時に再生を祈るような儀式に使われたのかもと考えられたり、また国宝となっている「縄文の女神」は45cmと大きく発見された時は割れてはいたが壊されてはいなかったので、祭祀用に飾られていたのではとの説も。最近では「土偶は食用植物および貝類をかたどったフィギュアである」という説を唱える人もある。「ハート形土偶」の顔はオニグルミ、「縄文のビーナス」はトチノミなど、女性ではなく植物を模ったと。興味はつきない。 

いずれにせよ、万物に精霊が宿り、命があると考えてきた日本人古来の精神世界の大本が、縄文にあると私は信じている。 

三内丸山遺跡では説明を終えたガイドさんと、資料館までの帰り道一緒だった。 

その時「私、土器が好きで昨年の東博での縄文展を観に行ったのです。国宝の土偶はもちろん素晴らしいのだけれど、その展覧会で一番観に来てよかったと思うのがあって、それは胸と胴体しかないちっちゃな土偶なんです。ほんとに素晴らしくて。確か滋賀県から出土したものなんですけど。」と話すと、ガイドさんは「私もその小さな土偶が観たくて東京まで行ったのですよ」とおっしゃっられた。まあ、話が合いますね、と盛り上がった。 

顔も手も足もなく胸部と腰部のくびれだけの土偶の美しいこと。後から知ったのだが、発掘されている縄文土偶としては最古のものになる。それ以来、装飾もなく指先と変わらないようなたった3センチほどの小さな土偶が私にとってのヴィーナスとなっている。 

土偶や土器は謎に満ちているが、明るい。陰陽でいえば、陽。ポジティブさを感じる。 

有名どころでは、岡本太郎や民藝運動の柳宗悦も虜になったという。 

閉塞感のある今、その明るさ、力強さ、純粋さは必要で、ますます惹きつけられそうだ。