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沼津の猫から日本の猫に 竹内栖鳳/班猫/山種美術館

●今年もやってきた猫

日本画の巨匠・竹内栖鳳。「東の大観、西の栖鳳」と称される近代日本画のツートップである。今年、栖鳳が亡くなって80周年とのことで、日本画の美術館として有名な東京・広尾の山種美術館では竹内栖鳳展が開催されている。この展覧会ポスターに描かれた猫は「班猫/はんびょう」と題された日本画であり、山種美術館が所蔵する栖鳳の代表作で、重要文化財に指定されている名作である。山種美術館は常設展示がないので、この美術館で見られるのは数年に一期の企画展である。したがって、この猫会いたさに、足を運ぶファンもいる。描かれたこの猫は白地にキジトラの模様が入ったいかにも日本猫らしい猫である。猫好きならずとも、だれもが魅了されるこの作品はいかに描かれたのであろうか。

●竹内栖鳳とは

明治以降の近代日本画において、京都画壇の中心とされる画家が竹内栖鳳である。江戸時代から続く、円山派・四条派の伝統や水墨画など古典日本画の技法も取り入れつつ、1900年のパリ万博で渡欧後、西洋美術の技法も積極的に取り入れ、近代日本画のあるべき姿を求め続けたのが栖鳳である。師事し、影響を受けた日本画家は多い。橋本関雪、上村松園、小野竹喬、土田麦僊、西村五雲、村上華岳などである。その功績は帝国技芸員の指定、第一回文化勲章の受賞などの褒賞でも明らかである。

栖鳳の弟子・橋本関雪は「動物を描けばその体臭まで描ける」と語るのを聞いたという。その栖鳳の描写力はことに動物を描いた作品にその力量は表れている。栖鳳は「雀の栖鳳」と呼ばれることがあり、雀の描写には定評がある。栖鳳自身は「チュ チュ」という鳴き声が雀を描くときには表現できていなければならない、と述べたそうである。絵かがれた雀の姿は落語の「抜け雀」に登場する画家が描いたような雀の姿が見て取れる。

竹内栖鳳の描く虎も従来の日本画絵師とは明らかに異なっている。虎の絵で有名な絵師としては岸駒が挙げられる。もちろん江戸自体では生きた虎を見ることはなく、先達絵師の作品や毛皮、言い伝えなどの情報をもとに描いたものであり、そうした限られた情報の中で描いた虎としては一級品であることは間違いない。しかし、栖鳳の虎は写生から描いた作品だけに、その姿は実物をみて感じる虎に間違いない。

その一方、「観花」と題された骸骨が扇子を掲げて花見をする姿を描いた作品がある。これは京都府立大学から、人体の骨格標本を借りて、写生してから制作を始めた作品だという。また、「羅馬之図」という六曲一双の屏風に描かれた作品がある。「羅場」とはローマのことで古代ローマ時代の水道橋の廃墟を描いた作品である。日本から遠いヨーロッパの風景を描きながら、また西洋画の技法を取り入れながら、日本画として立ち位置を堅持して描いた力作である。やや茶色味がかったセピア調で描かれており、古びた風情を漂わせる心憎い彩色である。

●班猫

栖鳳の姿はその日、静岡県沼津にあった。ふと、八百屋の軒先にいた猫が気になってスケッチをとる。宿に戻ったが先ほどの猫が気になり、八百屋に頼み込んでその猫を宿まで連れてこさせて、そこでスケッチをとることにした。栖鳳はいたくその猫が気に入り、八百屋のおかみが可愛がっていたその猫を京都の栖鳳宅へ連れていくことを頼み込んだ。当初、断られたものの栖鳳の日本画と交換し、ついには京都まで連れ帰った。

そこで描かれた猫が今や重要文化財の指定を受けている「班猫」である。贅沢に下地に金泥をたっぷり使っている。その中に、背中をこちらに向け、振り返りつつ毛並みを整えようとしている猫がいる。生きているかのような細かに描かれたその毛並み。こちらをにらむようなキラリとした鋭い眼。栖鳳の画力を注ぎ込んだ名作である。また、以前あるテレビ番組で、その猫は右目から反時計回りのらせん状の構図で描いてあると、日本画家の宮廻正明が解説していた記憶がある。栖鳳のいろいな意図が組み込まれている名品なのである。

 

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