茶道具に憑りつかれた武将・荒木村重/荒木高麗・兵庫壺・有岡城・松永久秀・岩佐又兵衛/米澤穂信・黒牢城
●兵庫県伊丹市有岡城址
大阪国際空港=伊丹空港と呼んでいたので、てっきり大阪府の市かと思いきや、伊丹市は実は兵庫県であったと知って驚いたことがある。これは産地偽装ではないか、と思ったが、東京国際空港は千葉県成田市にあるので同罪である。
さて、この伊丹市にはかつて有岡城があった。織田信長の攻撃を受け、陥落後に再び城郭は再建されなかった。しかし、城下町はその後も繁栄をつづけ、特に酒造りの町として反映した。有岡城の最後の城主が荒木村重である。2021年下半期・第166回直木賞の受賞作・米澤穂信の「黒牢城」は荒木村重という戦国武将が主人公の小説である。本作は時代小説の雰囲気があるが、知将として知られる黒田官兵衛が荒木村重により有岡城内に幽閉されたという史実に基づき、村重が官兵衛の知恵を借りて事件を解決するというミステリー小説である。では、荒木村重という武将はどんな人物であったか。
●武将・荒木村重
村重は摂津国池田城主の家臣の子として生まれている。その後、数々の戦で名を挙げ、織田信長に懇意にされ、ついには城主となる。他の武将と同じく茶道に接し、茶道具に強い関心を持つようになる。文武両道に優れ、順調な人生であったが、天正6年、織田信長に反旗を掲げ、戦いを挑む。織田信長と対峙するきっかけは諸説あり、未だ明確な意図は判明していない。この時、村重が籠城していたのが、先の有岡城である。1年余り続いた有岡城での籠城戦も万策尽きかける直前、密かに有岡城を抜け出て、尼崎城へと移る。その後も、織田信長の追っ手をかわしながら、最後は同盟だった毛利氏の領地・尾道に逃げ隠れることに成功した。しかし、天正10年、織田信長が本能寺の変で亡くなると大阪の堺へ出て茶人としての生活をおくった。実は隠遁生活の際に名前を自虐的に「荒木道糞」と変えていたが、出家した際に「荒木道薫」と改名している。
●茶道具に憑りつかれた武将たち
戦国時代、ほとんどの武将が茶道に取組んでいる。茶道をたしなむことが、武士としての教養の一つとして確立するようになっていた。さらに派生的に財力・富・権力の象徴として茶道具が利用されようになっていった。一国の価値が、中国から渡来した茶入一つと同じとも言われた時代である。多くの武将は茶道具を血眼にして集め、征服した国や武将から茶道具を没収している。さらには戦いの褒賞として与えたり、同盟の証として献上したりしている。時として、自分の命より大切と思う武将もいた。戦国武将、松永久秀は織田信長に攻められ、信長の家臣として城の前に詰めていた明智光秀らの前で茶道具もろとも爆死したと伝わる。この時に松永の助命と引き換えに要求したのが、当時有名だった「平蜘蛛」という扁平な異形の茶釜だったという。
話を村重と茶道具との関係に戻そう。村重もまた茶道具に憑りつかれた武将であった。先の有岡城から逃亡した際、茶道具を抱え、側室とともに城を離れたという。その際に持ち出した茶道具とされているものが、荒木高麗という茶碗もしくは兵庫壺という茶壺である。また、立桐鼓という鼓も腰に据えていたという。有岡城から逃げ出すことに成功した村重であるが、その後も信長は執拗に村重の持つ茶道具の献上と降伏を要求する。それに従わない村重に対し、信長は有岡城に残されて捕らわれた正室や女中などを殺害してしまった。これを機に「卑怯者」というレッテルが村重に貼られることになる。村重が名乗った「道糞」はこうした恥じるべき行いであると、自嘲したからであろう。
●荒木高麗と兵庫壺
荒木高麗は村重が所有していた茶碗で、その名の通り朝鮮で焼成さ、釉薬の下からうっすらと青い呉須の絵付けが見える独特の茶碗である。絵の雰囲気は安南製の茶碗を思い出させるが、釉薬の雰囲気は井戸茶碗に似ている。信長の死後、豊臣秀吉も関心を持っていたようだが、徳川家康に預けたという説があり、現在は名古屋の徳川美術館の収蔵となっている。
一方、兵庫壺については情報がない。武野紹鷗が所持したものを引き継いだ茶壺という説があるが、定かではない。一方、新宮正治の小説「兵庫の壺」では、海上がりの壺が茶壺としてしたてられたものであり、他の者に渡ることを良しとせず、自ら打ち砕いたと書かれているが、これも事実かどうかは定かではない。
信長との戦いから生き延びた村重同様に、生き延びることができた一族がいる。それは異端の画家・岩佐又兵衛である。又兵衛は村重の実子と伝わる。「洛中洛外図屏風」の作者と言われているが、残虐な描写で知られている「山中常盤物語」という絵巻の作者でもある。どこか信長に惨殺された荒木一族の悲哀を反映するような描写であった。
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