イベリアの風 そして金文 綿貫宏介此処に/美術家の仕事/ギャラリー夢創館/商業デザインとアート/自由な心
●美術家の仕事
綿貫宏介(わたぬきひろすけ)氏は書・絵画・デザインをよくし、ブランドプロデュースまでこなされた美術家。
知る人ぞ知る独特の作風は、関西では数々のブランド意匠を通じ身近だ。
その特徴は、古代の書体「金文」を基調に創作されている。漢詩や禅、老荘思想にも関心が深く、漢字の成り立ちにも造詣が深くなければ出来ない仕事といえる。
しかし、堅苦しく小難しい雰囲気は微塵もなく、洗練されお洒落。そのすべてに遊び心が飛び交い、一度見たら忘れないスタイリッシュなタイポグラフィなデザインなのである。
たとえば、神戸発祥の老舗菓子店「本高砂屋」、日本酒の「小鼓」で知られる丹波市の西山酒造場、神戸市北区・有馬温泉の「陶泉御所坊」、などなど、手掛けたブランドデザインは数多い。
あぁ、あれかとおもいあたる方もあるかもしれない。
●ギャラリー夢創館
そんな綿貫氏が昨年1月に94歳で亡くなられ、コロナ禍で思うようにお別れ会も出来なかったと、親しかった方々がこの2月、追悼の展覧会を企画された。
場所は神戸市のギャラリー夢創館。夢創館のロゴも氏によるかっこいいものだ。
「イベリアの風 そして金文 綿貫宏介此処に」 副題としてー左右海、ワタちゃん 逸多會ー
??ーそうかい、ワタちゃん いったかいー と、読ませる。
追慕する方々が所蔵品を持ち寄られ、準備から展覧会運営のすべてを手弁当で行う、温かい想いにあふれた展覧会である。
作品は漢字デザインの作品集をはじめ、油絵、水彩画、デッサン、金工、織物、陶器、ガラス、着物、トランプやコースターにいたるまで、約200点幅広いジャンルの品々が並ぶ。
知人の幼いお孫さんの寝顔のデッサンのようなプライベート感のある作品や「捨てられるような物は作らん」とのことで、手掛けられた包装紙や箱、瓶まで。
それぞれが、夢創館館主・中西康子さんのこだわりの空間に、センスよく展示されている。
私は少々飾り付けの手伝いをし、ご縁で「弔いの会」に参加させていただいた。
会場には作品だけではなく綿貫氏の横顔の大きく素敵な写真が飾られ、ご挨拶できるよう設えてある。
写真は一見近寄りがたいような厳しさが感じられたが、商品デザインを依頼していた老舗の若き経営者さんたちが、「よく話しをしてくれた」「もっと一緒に飲みたかった」と口々に話しておられたのが印象に残った。
●イベリアの風とは?
綿貫さんは戦後初の留学生としてリスボンへ遊学されているのだ。
ポルトガル及びスペインに15年滞在し、ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカを訪ねその際、美術の才能に目覚め、南ヨーロッパの美術界に名を馳せる。
リスボン国立モダンアートミュージアム等、ヨーロッパやアフリカの博物館に合計41点の作品が収蔵されているほか、約20点の書画集を発表。ポルトガル及びスペインにて伝説的な美術家として知られるようになると、日本へ帰国されたと略歴にある。
ポルトガル航空の顧問となり旅した世界各地のお人形の絵や、細い線でサラッと描かれた女性はどれも魅力的。
別室で展示されている茶葉のパッケージは、一見しただけではお茶とはわからないほど斬新だ。
大阪・心斎橋本店、明治2年創業の宇治園のもので、平成5年からロゴマーク及び主な商品デザインを手掛けられた。
今から30年近く前である。当時宇治園の店舗前には、3メートル近い巨大なおかめさんが名物となっており、こちらも大阪名物の道頓堀の食い倒れ人形・太郎と結婚式を挙げたり⁈シンボル的存在だった。それを氏は反対を押し切りやめさせ、一新されたという。
看板茶”小佳女”おかめをはじめとした商品のみならず、喫茶店の看板・内装など総合的にプロデュースされたのである。もともと老舗で中身のお茶が素晴らしいいのだが、ますます事業を拡げ繁盛されている。
福知山の「ホテルロイヤルヒル福知山&スパ」もリニューアル時に氏がプロデュースされ、ホテル内や展示室に飾られた作品が落ち着きとモダンな雰囲気を醸し出してとても好評ときく。
弔いの会では、サプライズでポルトガルギターとマンドリンのデユオ「マリオネット」の演奏があった。
初めて聞くポルトガルギターの音色は乾いた旅愁。
なんだか船で大海原に出ていくような広がりが感じられ、癒された。
彼らは、焼酎○〇ちこなどのCMや番組音楽も多く手掛けているとか。
演奏途中、綿貫氏との思い出話では氏が奏でたポルトガルギターは、どうしても三味線に聴こえるといって笑いを誘っていた。
親子以上に年の離れた方からも慕われた器の大きい、天才肌の美術家だった。
「綿貫先生は、のびやかで自由な心の持ち主だった。愛した物を使い続けるために施したデザインと思想に、今こそ注目してほしい」と中西さんは語られている。
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