掛軸 書・仏画
日頃よりお客様のご自宅へ出張買取りで伺うと、かなりの割合で掛軸がありますがその中で仏画がよくあります。観音様、南無阿弥陀仏などの名号、十三佛そのほか多種にわたって仏事用の掛軸がでてきます。つい先日は埼玉県の60代のお客様のお宅で10幅ほどの掛軸を拝見した中に南無阿弥陀仏の六字名号と呼ばれている掛軸がありましたが、お客様との会話の中でご宗派が真言宗とお聞きしていて亡くなられたお父様の法事の際や春、秋のお彼岸、お盆のときにその六字名号を掛けていたとお聞きし、その掛軸をお持ちになられた経緯をお聞きすると近くの仏壇店で取り急ぎ購入されたとのことでした。真言宗であれば本来南無大師遍照金剛という字のものをお掛けいただくものなのですが、ご存じでなかったようでずっと六字名号を掛けていたということでした。意外とご自身のご宗派がお判りにならない方がみられます。浄土宗、浄土真宗、真宗は南無阿弥陀仏、天台宗、曹洞宗、臨済宗(禅宗)は南無釈迦牟尼佛、真言宗は南無大師遍照金剛、日蓮宗は南無妙法蓮華経とそれぞれ宗派によって唱える言葉が違うため、お掛けになる時は確認が必要です。
また別のお客様のところでは亡きお父様がご趣味にされていた掛軸で十三佛という十三体の仏様が描かれた掛軸がありましたが、同様にご宗派をお尋ねしたところ、真言宗とおっしゃられて掛軸を確認したところ真言宗の十三佛には十三体の仏様に加え弘法大師(空海)
が描かれているものが正しいのですが入っていませんでした。お父様もあまり分からずに購入してしまったのでしょう。十三佛の掛軸は亡くなられてから初七日にはじまり、二七
日、三七日~七七日(四十九日)百箇日、一周忌、三回忌~三十三回忌までの13回の法要の際、それぞれの守りご本尊が描かれたもので本来はお彼岸やお盆の時に掛けるものではありません。一般的には春、秋のお彼岸、お盆の期間には南無阿弥陀仏ほか名号と呼ばれているものを(日蓮宗だけは名号とは呼ばず「お題目」と呼ばれています。)お掛けいただき前述の法要の場面で十三佛を掛けていただきます。しかしながら近年では特に十三佛はお持ちになっていらっしゃらない方が多い傾向にありますが地域によっては法要の際、十三佛をお持ちでない方はそのお家の檀那寺でお借りしお掛けになるところもあるようです。少なくともお家にお仏壇のあるお宅では毎年春、秋のお彼岸、お盆と三回の仏事を迎えるわけですので仏事用の掛軸はお持ちになられておいたほうがよいでしょう。
名号などの字は書道の先生やお寺のご住職などが書かれたものが多いのですが、やはり仏事のものですので徳を積まれたご住職の書かれた掛軸のほうがふさわしいでしょう。
大抵名号などの掛軸には左下に書家さんであれば名前の後に「謹書」と、お寺のご住職であれば左下にお寺の名前とご自身の名前、最後に「敬書」とそれぞれ謹んで書きました、敬い書きましたと仏様に敬意をはらいお書きになります。また十三佛を含む仏画においては画面に作者の名前、印譜が書かれていないものが多くありますがそれは作者が仏様と同じ画面に自身の名前を記するのは恐れ多いということでお書きになられない作家さんが多く見られます。一部書かれている作者でも名前の後に「謹写」と入れられています。
今般住宅事情もすっかり様変わりして床の間はおろか、畳の部屋さえもないお宅が多くなってきている今、お仏壇も従来のような厳かなものではなく、洋室に置いても部屋の雰囲気を損なわずにインテリアの一部として溶けこむ家具調の現代仏壇がはやってきています。掛軸を合わせる空間もなくなってきているのも事実ですが、ご先祖様を敬い手を合わせる気持ちは大切なことだと思います。