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わしゃ死にとうない 仙厓/仙厓義梵 出光佐三・出光美術館

●海賊と呼ばれた男

ベストセラーとなった百田尚樹の小説で第十回の本屋大賞「海賊と呼ばれた男」は映画化され、多くの方に知ることとなったと思うが、実業家・出光佐三をモデルとした小説である。先行している国の庇護を受けた同業者に対して知恵を絞った競争で凌駕するストーリーがあった。また戦後限定的な石油の輸入により経済発展に支障を生じている世情を鑑み、自社タンカーでイランから直接するルートを開拓することにつながった日章丸事件の記述など、痛快なストーリーであった。

出光佐三は現在も続く出光興産の創業者であり、東京・有楽町と福岡県・門司の出光美術館に出光の蒐集した美術品が収蔵されている。両美術館のコレクションとして有名なものは、近代陶芸家・板谷波山の陶磁器と古唐津、そして江戸時代の禅僧・仙厓義梵の書画である。

一方、「昭和の仙厓」とも呼ばれる人物がいる。やはり実業家にして陶芸家としても知られた川喜田半泥子である。半泥子の遺した書画は仙厓のような洒脱が表れており、明らかに仙厓の影響を受けていると解るものである。

近代の実業家である出光や半泥子が愛してやまない、そして現代人までも魅了される仙厓とはどのような人物であったのか。

  

●仙厓義梵

仙厓義梵は江戸時代後期の禅僧である。1750年、美濃国で生まれた。1760年に臨済僧となり、諸国を行脚する。1788年に福岡・博多にある聖福寺に入り、のちに住職となった。そして83歳まで住職を務め、1837年、87歳のとき博多で死去した。墓も聖福寺にある。

この間、40代ぐらいから狂歌・書画を始めている。世相を風刺したり、世の中を面白おかしく描いたりして、人気があったという。博多では「仙厓さん」と呼ばれ、「東の良寛、西の仙厓」と称されるほど、武士から庶民まで人気があったという。仙厓は僧侶に備えるべき説教という言葉によって教義を伝えていくことは不得意であったようだが、絵と賛(絵に添えられた詞書)で彼の教えを上手く表現していたようにも思える。

  

●仙厓の狂歌

仙厓の狂歌として教訓的な「老人六歌仙」という、六首で呼んだ狂歌がある。老いを戒める言葉を綴ったものである。これを見ると、昔も今も変わらないなー、と思う。また、自戒の念も生じてくる。

(1)しわがよる、ほくろは出来る,腰まがる、頭は禿げる、髪白くなる

(2)手は震う、足はよろめく、歯はぬける、耳は聞こえず、目はうとくなる

(3)身に添うは頭巾、襟巻、杖、眼鏡、タンポ、温石、手便、孫の手

(4)くどくなる、気短になる、愚痴になる、出しゃばりたがる、世話やきたがる

(5)開きたがる、死にともながる、淋しがる、心がひがむ、慾ふかくなる

(6)又しても同じ話に孫ほめる、達者自慢に人はいやがる

●仙厓の真骨頂

最後にやはり禅画を紹介する必要がある。しかし、身の回りのものをゆるく描いた作品も多い。「きゃふん きゃふん」と発する声が添えられた犬の絵。ブタにも見える実にゆるい描き方である。括りつけられた棒があるので、繋がれた犬であると理解できる。しかし、この絵の意味は既成概念に縛られている人間の姿を比喩していると解されるのである。

仙厓の有名な禅画としてしられているのが「□△〇」という記号描いた作品である。実はよくみると「□→〇→△」の順に書いている。これは角の立ったいる自分ではあるが、丸くなっていきたいと思っているものの、未だ自分は角が一つとれただけの△であることを描いたと伝わる。

最後に、編集子お勧めの作品。絵の長い匙が描いてある。薬を調合するための薬匙のように見える。画面に添えられた文字は「生かすも 殺すも」とある。つまり「生かすも、殺すも匙加減」という絵である。「薬は加減を間違えると毒にもなる」という教えのようであるが、実は世の中にはこの匙加減が実に肝要である。もちろん治療における薬物はその量が重要である。しかし、世の中のあらゆる場面でこの匙加減が大切であり、行き過ぎると多々マイナス面が生じるのである。

さて、そんな仙厓でも臨終の場面はやってくる。病に伏せる仙厓の一言を最後に聞きたいとそばにいた弟子に「わしゃ死にとうない」と言ったとか。その意味を「偉い僧とはいえ、死はやはり怖いもの」ととらえるか、「まだやり残したことがあるからまだ死ねない」ととらえるか。仙厓は答えを言わず往ってしまった。

   

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