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ジェンダーレスにおける工芸の今/駒澤利斎・中村宗哲・黒田正玄・飛来一閑/宇野宗擁・諏訪蘇山・坂高麗左衛門・徳田八十吉/男女共同参画社会基本法

●ジェンダーレスの世界
50年ほど前、「ウーマンリブ」と呼ばれた運動がアメリカや日本で起こっていた。女性解放を標榜する男女平等を訴える運動であった。以降、公の場では男女の性差を是とする言動は慎まれるようになってはきたが、必ずしも実態として伴わないことがたったことは事実である。
9.7%。昨年11月の衆議院選挙で当選した女性の総議員数に対する割合である。女性議員比率で見ると、フランスが39.5%、イギリスでは34.2%、アメリカで27.6%となっているらしい。割合ですべてを語るのは無理な話ではあるが、やはり女性活躍社会にたどり着くまでは、これからも実に多難である。男女共同参画社会基本法が1999年に施行され、すでに20年。日本の社会においてはまだまだの感はある。
また、現在、各国が目指す社会の姿について、指標とされている項目に「SDGs」がある。環境保全・保護の意味合いを強く感じるが、人権などの項目があり、男女平等社会も含まれており、その達成に日本としても強く取り組むことが、国際的にも要請されている。

●伝統文化の中の女性たち
かつては女性が当代となって、伝統を守っていくことが難しかった時代がある。男子が代を継ぐことが要請されており、直系の男子がいなければ婿入りしてもらい代を継ぐことが当然とされていた時代が近年まであった。
千家十職。京都工芸界において、茶道三千家に作品を納めたり、当主の好みのデザインに応じて作品を製作する職人である。十職とあるとおり、茶道具十品目について、作品を各流派に納めることを職としてきた。陶器を製作する永楽善五郎は14代得全が死去のあと、夫人が跡を継承したが15代の襲名とはならず、14代妙全として当主を務めた。残念ながら、15代正全が成人するまでの繋ぎといった役割の当主・妙全の役割であった。明治時代のことである。
しかし、昭和・戦後になって指物師・14代駒澤利斎は女性であり13代夫人であった。その後、塗師の中村宗哲は12代と当代の13代が女性当主である。また、現在、柄杓師・14代黒田正玄と一閑張細工師・16代飛来一閑が女性当主となっている。したがって、当代が不在の金物師と指物師の二名を除く、八名の千家十職当主の内、三名が女性となっているのである。

●活躍する工芸界の女性当主
千家十職以外の京都工芸界においても、女性当主が活躍している。陶器では、四代諏訪蘇山、九代高橋道八がいる。漆芸では、三代一瓢斎、四代鈴木表朔が女性当主である。
また、歴代窯元の周囲では当主とならずとも、技術を継承・発展させる工芸家も増えてきた。京焼・七代岡田暁山夫人の岡田華渓は茜窯として陶器の作品を製作している陶芸家である。杉田眞龍は京焼・清閑寺窯四代杉田祥平の長女であり、後継者と目される陶芸家である。
京都以外でも女性当主が誕生してきた。
桃山時代の朝鮮人陶工を祖先とする萩焼の宗家・坂高麗左衛門は11代、と12代と続けて婿入りした当主であった。しかし、12代の急逝のあと、13代として襲名した方は12代夫人の姉であり、坂家で女性当主となったのは彼女が初めてである(残念ながら襲名わずか三年で逝去した)。九谷焼において、釉彩技法を発展させ人間国宝となった三代徳田八十吉が亡くなった後、四代目となった方も三代八十吉の長女である。
華道の家元、池坊家は550年の歴史を持つ華道の宗家である。やはりこの池坊家でも男性の養子による家元の継承が戦前までは行われていたようである。しかし、次期家元として襲名予定の方は初の女性家元である。
芸術・芸能などの世界では、必ずしも男性が代を継ぐということは崩れてきており、こうした伝統文化の中でも女性当主が誕生し、代の継承条件が変わりつつあることは事実である。
女性工芸家を挙げていくと、「女性の感性を生かした作品」などという言葉で生み出す作品を期待したくなる傾向がある。しかし、ジェンダーレスの世界における工芸家は、「女性らしさの発揮」というより、もはや男女問わず「個性の発揮」という言葉に集約されていくと思われる。
令和の時代では、代々伝わる伝統の技術をベースに、個人個人の個性を発揮して、その時代時代に沿った作品を生み出してもらうことが、男女問わず現代の工芸家に期待することになっている。 

 

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