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ズブズブズフ・・・ピカソ、沼にはまる/パブロ・ピカソ/ヨックモックミュージアム

●東京・青山 ヨックモックミュージアム

「ラングドシャ」という焼き菓子がある。もともとは薄く軽い食感のビスケットのようなもので、長円形のものである。「ラングドシャ」とは「猫の舌」という意味で、形状やざらりとした舌触りがまさしく猫の舌とおりであるが、「シャー」という猫の威嚇のような音感もある。そのラングドシャを筒状に巻いた「シガール」というヒット商品を販売している老舗の洋菓子店が、全国で知る人も多いヨックモックである。

東京・青山、東京メトロの表参道駅から根津美術館に向かう途中にこのヨックモックの本店があるが、2020年10月に美術館「ヨックモック・ミュージアムが本店近くに開館している。ここに収められているものは会長・藤縄利康氏のコレクションで、その内容はピカソの陶磁器が中心で版画などもある。30年をかけて収集したその作品点数は500点を超えるらしい。美術館の運営は一般社団法人を設立し、すでに企業本体とは別に運営しているという。あまり大きい展示室を持っているわけではないが、ピカソの陶磁器が多数展示されている美術館である。この藤縄氏を魅了したピカソの陶磁器とはどのようなものか。

●ピカソ、陶芸の沼にはまる

パブロ・ピカソ。1881年、スペイン生まれの言わずと知れた20世紀最大の芸術家である。19世紀末、18歳ですでに絵画の個展を開催していたという。苦悩した青の時代と大作「ゲルニカ」を描いた第二次世界大戦を経て終戦まで絵画が制作の主流であった。戦後、ようやく訪れた自由な空気の中で、ピカソは大戦戦中にかつて訪ねたことがある「マドゥーラ」という陶芸工房を訪ねた。戦争中に取組んでいた壺の習作を携えて、新たな造形への取り組み場所を求めてのことである。時にピカソ65歳。最初は陶土の塊から手びねりで三点ほどの作品を自ら製作したという。

以後、ピカソは陶芸を自分のアートの一つとして確立していく。もちろんピカソを支えた陶房とそのスタッフの助力はかけがえのないものであった。

ここで制作された代表的な作品は壺と皿である。しかし、その壺であるが、ピカソらしい独特な形状のものが作られている。人間の胴体を模したようなものや頭部を制作したものがある。

多くの皿は人の顔が描かれている。概ね顔のバランスがとれている写実的なものはあるが、まさにキュビズムで表現された顔もある。

ピカソはこうして陶芸に熱中していき、数々の作品を生み出した。絵画ではないが、やはりピカソのアートが間違いなく凝縮されている作品が生み出されていったのである。

●ピカソの陶芸作品とアンプラント、エディション

ピカソ本人が製作した陶器はいわゆる一点ものである。同じデザインのもので複数はない。しかし、ピカソは使用していた陶房に対して、その使用に対する対価を与える意味で、オリジナル・アンプラントとエディションという二つのタイプで複製品の制作を認めた。

アンプラントとは、ピカソの制作した陶器から型を作り、陶土で作品を型抜きして器体を制作する方法である。したがって、その形状はピカソの手によるものと相違ない。ただし、絵付け自体はピカソが行っていない作品である。

一方、エディションの方は、型を使用せずピカソの原型作品に対して忠実に陶工が成形から絵付けまで行った作品である。しかし、製作について細部までピカソは陶工に対して指示を行い、絵付けでは筆が入って出ていく方向も指示していた。例えば、職人が鳥の絵付けをしていると、その出来上がりをみて「私の絵より上手いじゃないか」といった、という逸話がある。もちろんこれは絵付けの巧拙を話したのではなく、陶工に対するピカソの絵に忠実であれ、という忠告なのである。

ともあれ、このエディションではのべ500種類を超える作品が製作された。一種類当たり数十から数百が製作されているから、このエディションが美術市場に流通している点数は膨大となる。しかし、複製品ということなかれ、オークションでの落札価格は1000万円を超えるものがあるから馬鹿にならない。

  

●陶芸作品の特徴

本人作、エディションとも多く作られているのが、手つきの壺である。正面に絵付けがされている。数で一番多いのは皿である。恐らく、本人作として制作されているものの中には、皿そのものは陶房の職人が製作したものは多いと思われる。型押しという板状の陶土を型に押し付けて制作する方法はあるが、きれいな円形の皿をロクロで引くには、65歳を過ぎたピカソには難しいであろう。

しかし、その装飾においては様々な技法を用いている。表面を盛り上げて模様を作るために、液体状の陶土をチューブなどで絞り出すイッチンという技法がある。次に、器体の上から、着色した液体の化粧土や釉薬を施した後に、模様を削り出す掻き落しも多用されている。さらには、明らかに深く彫り込んで模様にしているものがあり、一般的な陶芸家ではなかなか用いない技法もあった。

絵付に用いられる絵の具は、焼成前と焼成後の変化が少ない顔料系の絵の具を使用している。はっきりとした着色がされ、グラデーションとしての表現はあまり使用されていない。しかし、いずれも力強い絵付けである。